週刊東洋経済 2004年01月24日号

 さて、書評を再開します。手元には、身動きできない私をあざ笑うかのように数冊の雑誌が届いているのでした。1日1冊読破します。

復活せよ!

国内旅行

 先日、経済学の本を読んでいたら、上級財、下級財の話が出てきて、「海外旅行は上級財、国内旅行は下級財」という例が挙げられていました。上級財下級財というのは財(サービスも含む)の分類で、例えば、海外旅行と国内旅行の2財しか存在しない世界で、消費者の所得が上昇したときにその2財の消費量がどう変わるかによって分類されるものです。上級財は所得が上昇すれば消費が増えますが、下級財は所得が増えれば消費が減少します。古典的な経済学の教科書にはバターとマーガリンの例が載っていることで有名です。(^_^;)
 と、脱線はこのくらいにして、実は国内旅行をする人の数は年間3億人超です。国民一人当たり年間3回は国内旅行をしていることになります。それに対して、海外旅行は1300万人と10人に一人しかしていないのです。ビジネスの出張や帰省を含んでいるとはいえ、桁違いの数字です。
 なのに、国内旅行は地味なイメージがあります。それは、旅行者一人旅行一回当たりの単価が約3万円と、海外旅行の約10分の一であり、企画から手配までの手間がかかる割にあまり儲からないということにその主因があります。つまり、国内旅行は成熟産業だと言うことです。
 この辺で、もうぴーんと来たでしょう。成熟産業というのは、あくまで顧客のニーズが変化しないことを前提に成り立つものです。しかし、国内旅行を行う旅行者のニーズは、そして市場そのものは刻々と変化しているのです。そうなると、新しいビジネスチャンスが生まれてくるというものです。今回はそんな特集です。
 旅行の内容の変化について2つの視点から取り上げています。
 一つ目は、旅行者(団体、グループ)の規模です。旧来の客というのは大型バスで乗り付けてくる団体客であり、新しい客というのは個人や少人数グループの客です。今や団体旅行はすたれ、個人(グループ)で旅行する時代です。この新しい風をうまくつかんだ宿泊施設は繁盛を続け、団体客にすがり続けたところは四苦八苦しています。
 二つ目は、旅行の目的です。観光バスで、地方を回りつつ、つまみ食い的に観光を行うような旅行は今は衰退し、目的性の高い旅行がはやっています。特集では例としてJTBの「ファーブル」などを紹介しています。ファーブルは自然と接するエコツーリズムを取り入れた商品です。
 次に、旅行者を迎える地域の集客改革として、長野県の「小布施町」の成功体験の紹介と、今春九州新幹線が開業する南九州地方の取り組みを紹介しています。いずれも、新幹線の開業というハードウェアと客を集めるソフトウェアの調和が必要だと述べられています。
 特に小布施町の北斎館周辺整備事業の話はおもしろいです。「群居の思想」だとか。働く人と住む人と訪れる人が調和できるってどんな感じでしょうか。行ってみたくなります。
 九州新幹線は部分開業ですが、鹿児島を随分近くします。今まで、福岡-鹿児島間が3時間50分かかっていたのが、2時間10分になるのですから。私も鹿児島に行くときは是非利用しようと思っているくらいです。さて、部分開業ながら、ハードウェアができました。それに対してソフトウェアはどうかな。あの有名な佐賀県知事さんのインタビューが載っていたけど、佐賀県だけ、或いは各県がバラバラに行動してはその効果を最大化できません。九州人の一人としては、是非とも九州全体の観光底上げに知恵を絞ってもらいたいものです。
 旅行者そのもののお話しもあります。国内旅行で20万円超の出費をする50代以上の世代(団塊の世代)をターゲットにしようというお話しです。彼らが仕事をリタイアした後、その余った時間と金を国内旅行に向けさせようと言うことです。彼らをターゲットにした企画も次々と登場しているようです。古くはフルムーンなんてのがありましたね。(今でもあるのかな。)旧国鉄は時代を先取りしていた?
 さて、この高齢者(エルダー)をターゲットにという記事の中で日本の人口ピラミッド図が載っていました。・・・もうピラミッド型ではないですね。釣り鐘型でもない、二重に山のある紡錘形とでも言うべきか。しかし、私の年の人口だけ、ひときわくぼんでいるんです。(ひのえうまです。)一目で分かります。(^_^;)
 ネット販売部門では、旅の窓口の攻勢が伝えられています。ネット販売だけを取れば、あのJTBさえ足元にも及びません。旅の窓口には私もたびたびお世話になっています。m(__)m
 ところで、旅の窓口と言えば、楽天による買収がありましたが、その買収によってシナジーは発揮できるのでしょうか。楽天を利用する客を旅窓に誘導できるのか・・・。どうなるか楽しみです。さて、旅窓以外のネット販売ですが、あれこれと工夫を凝らしています。各社の工夫もなかなかおもしろいです。
 最後は、外国人旅行者です。国が観光立国を目指して動き出しました。私は福岡の人間ですから、福岡の家電量販店にはちょくちょく行きます。そこには、なんと中国人、台湾人、韓国人など多くの外国人の姿が見られます。記事に書いてあることが現実に見られるのです。確かに、福岡はアジアの窓口だなと実感します。たまに東京に行ったとき、お上りさんよろしくアキバを徘徊しますが、福岡ほどは外国人を見かけません。(あそこは日本人だけでも相当多いしね。)外国人は昔は天神地区が多かったけど、近頃特に博多駅周辺が多いようです。なんといっても、空港から5分で博多駅ですから、利便性は抜群です。
 脱線しかけましたが、海外からの旅行客を招き入れて国を潤しましょうというお話しです。外国人旅行者は、現在は韓国がトップですが、中国の潜在力は見逃せません。しかしながら、外国人観光客受入にはビザの問題があるそうです。このビザの発給は国内でも簡素化するように声が挙がる一方で、外国人犯罪の増加など治安の悪化を理由になかなか簡素化されないのが実情のようです。
 というわけで、今回は国内旅行に関する特集でした。人々の生活スタイルが多様化して旅行に対するニーズも様変わりしてきました。どこの業界もそうでしょうが、そうしたニーズの変化をとらえて手を打てるところは繁栄し、そうでないところは廃れていってしまうのでしょう。他山の石としなければなりませんね。