オイコノミア「みんな満足!分け前のルール」(2017/10/11放送)

最近の新型コロナウイルス感染症に関して思い出したことがあったので・・・。

3月の後半から新型コロナウイルス感染症の影響により経営環境が悪化する事業者が出始めました。
某市の経営相談窓口は、金融関連の保証の手続きを申請に来られる事業者が殺到しています。そのため、我々中小企業診断士も増援で臨時に窓口対応するように依頼がありました。1日当たり最大15人程度まで増やした時期もありました。

増援依頼があった人は過去に相談窓口を担当した経歴がある人が中心でした。スケジューリングは1ヶ月単位で本部が決定します。まず本部が対象者に対して対応可能な日を打診します。連絡があった診断士は対応可能な日を返送します。その希望を元に窓口の1日当たりの定員に合わせて本部が担当を割り振ります。
調整されて決定した割当表を見ると、他の診断士がどれだけ希望してどのくらい割り当てられたのかが分かります。多い人は平日ほとんど希望していました。私は週に1回くらいの割合で希望していました。

そしてその結果割り当てられた数は・・・。


2017年10月11日放送分の「オイコノミア「みんな満足!分け前のルール」」

【出演】又吉直樹、(ゲスト)横澤夏子
【解説】慶應義塾大学 教授 坂井豊貴
【ナレーター】 朴璐美

3年前の放送ですので結構古いです。
ですが、ブレイク前のEXIT「兼近大樹」さんもちょっとだけ出演していました。今のキャラクターとは全く違っていて初々しい感じでした。

テーマとしては、限られた財を合理的に分配するルールについてです。
分配のパターンは、3つ上げられています。
(1)分配予定数が主観的なもの
(2)分配予定数が客観的なもの
(3)分割不能な財の再分配

最初に示した窓口業務は「仕事」と言うことになりますが、一月あたり15人×20日=300窓口の財ということになります。この分配が鍵になります。
有形無形にかかわらず様々限りある財(資源、以下全て財という)をいかに公平に分配するかということは社会にとっては重要な課題になります。

というわけで、


たこ焼きパーティーにおけるたこ焼きの分配

まずは、たこ焼きパーティーを例にとって、分配の基本的な考え方について説明しています。

あるたこ焼きパーティーで提供できるたこ焼きの数は24個です。

参加者が3人(赤嶺総理さん:A、兼近大樹さん:B、鈴木もぐらさん:C)いて、それぞれ食べたい個数が(6個、12個、18個)です。食べたい個数の合計は36個となり、24個では不足してしまいます。そこで不公平感を生じないようにうまいこと分配する必要が生じます。これは、分配予定数が「主観的なもの」の分類方法になります。

参加者
食べたい数

さて、どのように分配するのが公平な分配方法でしょうか?


1.均等分配
各人の希望を無視して均等に分配します。つまり、全員8個ずつです。

参加者
均等配分

分配の方法としてはシンプルですが、これだとAに希望以上の個数(希望6個に対して分配8個)となります。これは無駄のない財の分配とは言えません。

そこで番組で紹介している方法がいくつかあるのですが、まずは最初に分配の歴史についてアリストテレスのニコマコス倫理学が紹介されています。その第一原則は「等しいものは等しく扱う」というものです。第二原則は「等しくないものは等しくなく扱う」というもです。これらは全員の公平感に基づいて考えられた原則と言えます。つまり、全員が不公平と感じないやり方と言えます。


2.比例配分

財の数:希望数=24:36=2:3というわけで、希望数の66.7%個を配分していくものです。

参加者
比例配分

一見、合理的な分配方法に見えますが、これは実はあまり良くない分け方なのです。番組内で坂井先生は「退場と言うほどではないがイエローカード」と言っていました。その理由は後で説明するとして、その他の分け方を紹介します。


3.イコール・ゲイン

聞き慣れない分け方ですが、実社会ではいろいろな場面で使われている分け方です。これは、最初は参加者に均等に財を分配していき、ある参加者の希望数に達したらその参加者への配分は終了します。そして残った財を残りの参加者で均等に分配していくというものです。

たこ焼きパーティーの例では以下のように分けていきます。まずは均等に分けていきます。それぞれ6個ずつ分けたとします。

参加者
イコール・ゲイン

このとき、Aさんは希望個数6個に達しました。分配された財の合計は18個で残りの財の個数は6個です。ここで、残りをBとCに分けていきます。

参加者
イコール・ゲイン

さて、このとき結果はどうなるかというと、Aは6個、BとCは9個となります。

参加者
イコール・ゲイン

この分配状況に置けるそれぞれの満足度ですが、Aは希望個数になっていますが、BとCは希望個数からは随分と減らされています。でも、CはAやBの個数をうらやましいと思うかというとそうはならないし、Bにおいても他の2者をうらやましいとは思わない状況です。これを無羨望といいます。

番組では又吉さんが「実際にこういう分け方をしていることとかあるんですか?」という質問をしたところ、赤嶺さんが即座に「給食のおかわりとか」と答えていました。これは台本ではなく本当に思いついて答えたとしたら凄いですね。まさに給食のおかわりはこのやり方です。


4.イコール・ロス

これも聞き慣れない分配方法です。イコール・ゲインが余剰分を均等に分けるのに対してイコール・ロスは不足分を均等に分けるというものです。

36-24=12個なので、この12個を均等に分けます。つまり一人当たり希望数-4ということになります。

参加者
イコール・ロス

こうなるとAは希望6に対して2しか分配されないというかなりきついことになりますが、番組では「他の人も同じ数だけ減らされているから文句は言いづらい」と答えていました。


さて、番組ではたこ焼きパーティーの例では「イコール・ゲイン」が好ましいと解説していました。その理由として、参加者が実際の希望数よりも多く申し出ることがあるからだと解説していました。実際の希望数よりも多く申し出ると比例配分とイコール・ロスでは得をしてしまいます。番組内ではCのもぐらさんが実際にほしい数よりも大きな数を希望数としていたことが判明していました。

冒頭でお話しした経営相談窓口の例もまさにそれで、たくさん希望してたくさん窓口に座れるならみなたくさん手を上げることになるでしょう。実際の割当表を見てみると、多く希望した人もそうでない人もほとんど同じ日数となるよう配慮されていたので、まさにイコール・ゲインの考え方で分配したものと思われます。


遺産相続のルール

番組では次に遺産相続のルールが取り上げられていました。まずは小芝居にて、父親(又吉さん)、息子(坂井教授)、娘(横澤さん)と言う配役で、父親が今際の際に残した遺言で「娘には100万円、息子には50万円を譲る」とありましたが、実際に金庫を開けると100万円しかなかったという状況です。

前段のたこ焼きパーティーでは希望数は主観的なもので第三者が確認することが出来ないのに対して、今回は客観的な希望数に対して財がそれ未満しかないという状況です。

さてこのとき、分配を受ける側に優先・劣後があるのかが問題になります。

例えばある企業が倒産した場合は、残存する資産を現金化して債権者に分配しますが、このときは従業員の未払給与などが優先されます。残存する資産が有って未払給与を支払った後更に資産が残っていれば、その残った資産が債権者に分配されます。債権者に分配される際は比例配分(プロラタ:proratable)となることが多いです。

番組では、古代ユダヤの経典タルムードの話が出てきますが、これは脱線しすぎか・・・。タルムードでは財が少額の場合はイコール・ゲインで、財が多額の場合はイコール・ロスでという考え方なのだそうです。でも、どのくらいで多少を判断するのかは微妙ですよね。

相続人 息子
比例 67 33
イコール・ロス 75 25
イコール・ゲイン 50 50

番組では、この状況下ではイコール・ロストするのが合理的と解説していました。個人的な感想として微妙な感じがします。比例配分でも良いのではという気がしました。


非分割財の配分問題

被災地での支援物資、今回の新型コロナウイルス感染症の災禍における医療リソースの分配問題などがこれにあたります。

番組では避難所で毛布1枚に対してn人の希望者がいる場合を例に挙げていましたが、リソースmに対して希望者nがm<nの関係の時はこの問題が起こります。つまり、財を全く入手できない人がいるということになります。実社会では毛布だったり、人工心肺(ECMO)だったりすることになります。まさに命の選択になる可能性がある重要な問題です。

番組では、非分割財の配分方法として以下の2つの方法を示していました。
(1)抽選(じゃんけん、あみだくじなど)
(2)優先順位

(1)の抽選は公平なルールではありますが、実社会ではあまり使われていないやり方の気がします。
(2)の優先順位は医療現場における「トリアージ」のように助けるべき命を選択する判断をすることになります。この優先順位はその場で決めると不平不満が出るので、事前に決めておく必要があるというのが番組での説明でした。

震災のようにほぼ同時にリソースが逼迫する状況(避難所に来る被災者はほぼ同時に来てその後ほとんど増えることはない状況)ではこれらの分配方法も良いですが、今回の新型コロナウイルス感染症にのように少しずつ(五月雨式に)対象者が増加していくような場合は採用が難しいです。なぜならば、必要な人が発生した時点でリソースがあればそれを先に分け与えることになるからです。つまり、後になればなるほどリソースが足りなくなるということになります。こうなると全ての人に平等の治療を受けてもらうことが難しくなります。
外国のニュースで実際に医療崩壊が起きたと言われる国では残念ながら非情な選択を迫られた例もあるようですが、現時点ではメディアの報道に過ぎません。将来にわたって事実関係が検証され、今後の教訓として活かされていくことを祈るばかりです。

ちなみに、坂井教授は分配方法(3)としてオークションで分配するという方法を提唱していました。もちろん批判覚悟でということでした。得られた代金を残りの人に再分配するということでした。これは非分割財の分割ということになります。これはとてもに経済学者的な意見だなとは思いますが、実際には難しいですね。でも全てシステム+ネットで管理すれば非分割財のオークションと再分配も可能になるかも知れません。


分割の方法のまとめ

様々な状況下において、「比例配分」「イコール・ゲイン」「イコール・ロス」などの分配方法を使い分けることが、不平不満を最小限にすることになります。

財の有効な配分問題というのは社会にとっての永遠の課題です。

最近、財の分割方法を見直す機会があったので、かなり古い放送でしたがオイコノミアをレビューしてみました。